物質-反物質の対称性を破るトップクォーク-ヒッグス粒子間結合の探索とゲージ理論

掲載日2024.04.15
最新研究

教育学部 理科教育
特任研究員 Zheng Yajuan
素粒子理論

概要

将来のミューオンコライダーにおけるトップクォーク対とヒッグス粒子の生成過程で、新しいCP非保存現象を探る研究を日米の共同研究者と共に発表しました。生成率がエネルギーと共に急激に上昇する原因が、トップクォークとヒッグス粒子のCP非保存結合がゲー
ジ対称性を破ることの結果であることを明らかにしました。整合的な解析法としてゲージ不変な有効場理論(SMEFT)の枠組みを提案し、一貫した理論的予測を得ました。そして、新しい方法で確率保存則による制限を求めて、このSMEFT枠組みの有効範囲を定めました。

背景

素粒子物理学の標準模型(SM)は、有効場理論(EFT)として、すべての高エネルギー実験データを解釈するのに成功しました。しかし、宇宙の物質と反物質の非対称性を説明するためには、新しいCP非保存(CPV)相互作用が必要です。期待される可能性の一つは、トップ
クォーク-ヒッグス結合です。この結合がヒッグス粒子の最も強い結合だからです。この可能性は、さまざまなハドロンコライダーおよび電子?陽電子リニアコライダーの過程で研究されて来ました。将来の円形ミューオン加速器は、10TeVを超える非常に高い衝突エネルギーに到達し得るため、CPV研究の新たな舞台を提供することが期待されています。

研究内容

Zheng Yajuan 特任研究員は、日米の共同研究者(Vernon Barger(ウィスコンシン大学)、萩原薫(高エネルギー加速器研究機構))と共に、ミューオンコライダーにおけるヒッグス粒子とトップクォーク対の生成過程で、CP非保存結合の帰結を検討しました。

研究成果

CPV位相が非ゼロの場合、高エネルギーにおける断面積の急激な増加が見られ、その原因が、左図で表される部分振幅におけるゲージ不変性の破れだと特定しました。そして、ゲージ不変な有効場理論(SMEFT)の枠組みを提案し、中図の理論的な予測を得ました。エネルギーと共に急激に上昇する断面積は確率保存則の違反につながるため、全てのゼロ角運動量過程の断面積を足し上げる新しい方法を用いて、この有効理論の適用エネルギー範囲を特定しました(右図)。

今後の展開

現在および将来の全てのコライダーでトップ-ヒッグス相互作用における新しいCP非保存現象を発見し、宇宙の物質-反物質の非対称性の起源を明からかにしたいと考えています。

掲載論文

題目: CP-violating top-Higgs coupling in SMEFT
著者: Vernon Barger, Kaoru Hagiwara, Ya-Juan Zheng
誌名: Physics Letters B
公表日: 2024年2月28日
DOI: 10.1016/j.physletb.2024.138547

用語解説

  • CPV
    CP対称性は、物質と反物質の対称性であり、その破れ(CPV)は観測された物質優勢宇宙の説明に必要な条件です。
  • SMEFT
    標準模型(SM)のゲージ対称性を保つ有効場理論(EFT)。
  • ゲージ不変性
    標準模型の予言可能性はそのゲージ不変性に依拠しており、その破れは予言能力の喪失につながります。
  • 確率保存則
    確率の保存は全ての物理法則の基本原理であり、これは量子場の理論においては散乱振幅のユニタリティー性として表現されます。

本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました。
?文部科学省科学研究費補助金?基盤研究(B)「21H01077」研究代表者:馬渡 健太郎
?文部科学省科学研究費補助金?基盤研究(C)「23K03403」研究代表者:Zheng Yajuan

本件に関する問い合わせ先

教育学部 特任研究員 Zheng Yajuan
019-621-6561
yjzheng@iwate-u.ac.jp