農学部 動物科学科(動物行動学研究室)
准教授 出口 善隆
動物生産科学
動物たちが何を考えているか、理解する方法はあるのでしょうか?そのヒントを与えてくれるのが、動物たちの行動です。動物は、自身の生理状態(内的要因)や、周りの環境(外的要因)の影響を受けて、ある行動をしたいという欲求(動機づけ)が高まり、実際に行動を行います。逆に、動物の行動を調べることで、その動物がどのような動機づけをもっていたのかが推察できます。また、その動機づけには、どのような要因(内的あるいは外的)が関係していたのかを、推察することもできるのです。このように動物の行動を調べることで、動物が何を考え、何を求めているのか、またそれらには何が影響しているのか、その一端を理解することができるのです。
カモシカは、きまった場所でフンをします。その場所にはフンがたまるので、ためフンといわれます。住宅地が隣接している森林で、カモシカのためフンの場所を調査しました。その結果、低い木が適度に生えていて、斜面の途中の傾斜が緩やかになった場所に、ためフン場が多いことがわかりました。また、道路から200m以内や、住宅地から100m以内の範囲は、避けられていることもわかりました。これらのことから、カモシカは排フン中に襲われないように、ある程度隠れる低木があり、斜面を背にできる場所を、ためフン場に選んでいることがわかります。また、人や飼い犬などとの遭遇を避けるために、道路や住宅地の近辺を避けていることもわかります。カモシカと人が共生していくのに必要な環境要因の一端を、これらの結果から推察することができます。
ニホンリスは以前から、岩手大学構内に生息していることが知られていますが、最近その数が減少しています。以前のように生息数を増やすにはどうすればいいのか。そんなことを考えながら、ニホンリスの調査をしました。その結果、ニホンリスは1年を通して常緑樹上の巣を頻繁に利用していました。また、巣とクルミの木との距離は、クルミの実る時期に短くなりました。このことから、ニホンリスは常緑樹に巣を作ることで猛禽類に襲われる危険性を低下させる一方で、主食であるクルミ類を効率よく得られるよう、季節によって営巣場所を変えていると考えられます。
シカの分布域が広がり、それに伴って農作物被害地域も広がっています。シカはどのように分布を拡大していくのでしょうか。シカによる果樹の被害が発生しはじめた地域で、自動撮影カメラを使って調査しました。その結果、森林では日の出と日没前後にシカの撮影頭数が増加したのに対し、果樹園では日没前後と深夜に撮影頭数が増加しました。これはシカが人を避けて、夜間に果樹園に侵入するためと考えられます。また、調査期間(2年間)を前半と後半に分けたところ、後半には撮影頻度が2倍に増加し、メスの撮影割合が増加しました。このことから、シカは分布域を広げるとき、まずオスが新しい土地に侵入し、遅れてメスが侵入することがわかります。
動物の行動を調べることで、動物が暮らしている環境の評価をすることができます。野生動物と人が共生できる環境の整備に役立つ情報を与えてくれます。さらに、環境を変化させることで行動が変化するので、人にとって問題となっている動物の行動(野生動物による農作物被害など)を制御する方法なども、動物の行動を調べることでわかってきます。みなさんも一緒に動物の行動を調べて、動物が何を考えているか、何を求めているかを探ってみませんか。